藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論③:自粛でなく水際対策の強化が感染を収束させた】
集中連載「第二波に備え「8割自粛」を徹底検証すべし」
■(2)新規感染者数のピークは3月下旬だが、「感染者の拡大スピード」のピークは3月中旬だった
ここ最近、筆者が申し立てた「新規感染者数の推移を見れば、緊急事態宣言の遙か前の、3月下旬で、ピークアウトしていた」という事実が、TV等でもしばしば取り上げられるようになってきました。そして、緊急事態宣言が、ピークアウトさせた原因ではないという、筆者が一貫して主張し続けてきた「真実」がようやく表でも論じられるようになってきたように思います。
ただし、筆者は本日、ここでさらに読者各位に提示したいのは、
「新規感染者数の増加率の推移」
に基づくデータです。これは、日常用語で言うなら、感染者が増えていくスピードのデータです。
図1をご覧下さい。これは、「新規感染者数の増加率」、つまり、「感染者が増えていくスピード」の推移を示しています。
ご覧の様に、日々変動はしていますが、傾向としては、3月中旬あたりをピークとして、徐々に低下していっている様子が見て取れます。
つまり、3月中旬頃までには「感染拡大のスピードがどんどん上がっていっていた」一方、それ以降は、「感染拡大のスピードはどんどん低下していっていた」わけです。
そして、そうした推移の中で3月の下旬に、感染拡大率が「1」を下回ることが多くなったことが分かります。これはつまり、感染者が前日よりも翌日の方が少なくなる、ということを意味しているのであり、したがって、新規感染者数が「ピークアウト」して「収束」に向かうことになったわけです。
昨今TVで取り上げられるようになった「3月下旬にピークアウトしていた」という「真実」の背後には、こうして「1を上回っていた増加率が3月中旬から減少していき、下旬にようやく1を下回ることになったから」という事情があったわけです。
■(3)「感染拡大スピード」が緩まっていった3月中旬に、政府は水際対策を加速していた
ではなぜ、「感染増加スピード」が3月中旬頃から縮小していったのでしょうか?
この点を明らかにするために、「日々の変動」の影響を排除して、スピードの増減のトレンド(傾向)を分析するために「移動平均」という方法を使って分析したいと思います。これは、その日を中心に前後数日間を含めた平均値を求め、その平均値の推移をとるというものです。
そのグラフを図2に示します。
このグラフをみると、先程申し上げた「感染拡大スピード」の変遷、つまり、3月中旬までスピードが上がり、それ以降低下し、4月中旬頃に横ばいになっている様子がよりくっきりと分かります。
この図2を見る限り、やはり、緊急事態宣言、あるいは、「8割自粛要請」(ましてやその全国拡大)は感染拡大スピードの下落に何の貢献もしていない、ということが明らかに示されています。
一方で、スピードが上昇から下落に転じた3月中旬頃には、実はかなりの対策を政府が行っていたことが分かります。
中には、「大規模イベント自粛要請の延長」という「国内対策」もありますが、その大半が、水際対策です。
中国、韓国、欧州と言った、感染が拡大していた地域からの入国規制や、渡航自粛要請、あるいは、渡航禁止令などが矢継ぎ早に出されていったのが、この3月中旬だったわけで、その頃から感染拡大速度は低下していったのです。